2016年10月25日火曜日

市民フォーラム「根室市の方が安心してお産をするために」

2016年10月15日

 根室市外三郡医師会と根室市が共催する市民フォーラム「根室市の方が安心してお産をするために」が市総合文化会館で開催されました。会場いっぱいに多くの市民の方が参加されて(男性の方も非常に多い)、道内とりわけ2006年より長年にわたって分娩が出来ない状態となっている根室市の現状について、学び考える機会となりました。

 はじめに妊娠・出産への支援の説明として、根室市の鈴木保健師から行政による妊娠出産に関わる支援制度の概要について説明され、続いて市立根室病院の近藤助産師さんより「つわり」などのステージごとの妊娠トラブルやその対応、病院や助産師の役割について説明をされていました。

 特別講演として、釧路日赤病院産婦人科の東正樹部長が「北海道の周産期医療の現状と問題点-根室市民の安全なお産を考える-」をテーマに、地方で現場の最前線で働く医師の観点をふまえた講演をされました。

 以下は特別講演について、橋本が聞き取れた内容をおおまかにメモ書きしたものです
  • 道内の分娩が出来る施設は年々減少している(H17年119施設⇒H26年96施設)
  • 道東でも分娩施設は10年前は11施設あったが、4施設に減少した。
  • なぜ分娩施設が減少したのか。産婦人科の減少。
  • 以前は広く薄くどこの病院にも産婦人科が派遣されていた。それが結果として個々の医師に長時間労働など過酷な勤務を強いるようになった。
  • また専門医制度により、産婦人科医でもお産を扱わない医師が増えてきた。
  • 道内の医師数は増加しているが、産婦人科医師数はH16に大幅に減少し、回復できていない。
  • H18年の福島県の事件は地方で働く産婦人科医に大きな衝撃をあたえた。これを契機に医師一人で出産を扱うことをやめる流れが加速した。
  • 女性医師の増加。患者さんにとって望ましいことだが、女性医師自身が出産育児する立場になったあとの人員補充がない。当直など残った医師の負担増。
  • 方向転換。人口や出生数に応じた「適切な」産婦人科医の配置、集約化へ。H16年に最初は空知で集約化がされ、H19年に釧路では労災から日赤に集約化された。H18年10月に市立根室病院から医師が引き揚げ、分娩中止となった。
  • 集約化によってもたらされたもの。医師の労働環境の改善、安全な診療体制など医療者側にとっては比較的好意的に受け止められている。
  • 患者側にとっては、集約化された病院の近くでは安心安全なお産というメリットがあるが、反面病院から遠い方にとってはデメリットが生じている。
  • 病院側として集約された病院は患者増・収益増になり、一方で医師が引き揚げた病院はその反対の状況。
  • 集約化は「良かった」のかどうか? 東医師の感想としては「医師の適切な配置」がうまくいっていない。その一つが医師の偏在。
  • 道内の医師の51%が札幌圏に偏在している。釧路・帯広・宗谷・オホーツクあわせて30.1%しかない。アンバランスな状況が続いている。
  • それに対して適正な配置を行うために、道の周産期医療体制整備計画が策定されている。
  • 総合周産期センター(釧路日赤ふくめ道内6か所)⇒地域周産期センター(道東だと市立釧路病院・町立中標津病院)⇒一時分娩施設として区分し、3者が連携して分娩の体制を構築している。
  • 安全なお産のためには、何㎞以内に産婦人科があればよいのか?
  • 陣痛が発雷して、分娩に至る平均的な時間は初産婦で15-16時間、経産婦で6-8時間。
  • 墜落産(突然、急激に陣痛が来て分娩すること)は3時間以内の分娩とされている。
  • したがって、分娩のための安全な移動時間および距離は2時間、100㎞ぐらいの間に分娩施設があったほうがよいと考えられる。
  • 冬期間の移動も考えると100㎞を超える地域には、産科医を優先的に配置することが提唱されており、その意味では市立根室病院は産科医を確保すべき病院とされている。
  • 他の地域の状況について。
  • .浦川は1人の産科医が交代でお産を対応している。良い環境ではないが、札幌に近く医師を派遣しやすいので辛うじてつないでいる状況。
  • 江差・松前も長く出産できなかったが、2年前に道立病院に産科医が赴任し分娩再開している。
  • 紋別・遠軽は最近再開された。
  • 小樽は公的病院ではお産をしておらず、開業医が年400件ほど取り扱っている。札幌近郊としてはあまり良い状況ではない。
  • 現在の状況としては、根室が取り残されている状況ともいえる。
  • 根室は常勤1名。また週末に釧路日赤から応援があり、基本的に産婦人科医はいる体制。妊婦健診、夜間休日の症状にも対応している。助産師もおり産後の指導もできる体制。
  • 分娩のときに、釧路や別海、中標津など希望の病院にいくかたち。
  • 釧路日赤では墜落産・車中の出産の危険性をふまえ、原則38週以降の分娩誘発をおこなっている(社会的適応)。
  • 根室市での分娩再開に向けてどのように考えるか。
  • 産婦人科医の立場としては安全な分娩体制を望んでいる。それは緊急時の対応(30分以内に帝王切開が可能か?)、小児科、麻酔科が24時間体制をとれること。これは最低条件。特に若い医師などを迎え入れるためにはこういった体制が必要。
  • そのほか、医師の労働環境への配慮。長い期間、出産を取り扱える体制の継続性が重要。
  • 複数の産科医(必ずしも常勤でなくてもよい)。小児科と麻酔科の協力。助産師の体制。
  • 医師確保の課題。今後は大学医局が中心となる体制から「地域の基幹病院」が中心となって、基幹病院の体制を手厚くし、基幹病院からさらに地域の病院に医師を派遣する体制を構築していかないと、維持することが出来ないのではないか。地域の病院は地域で完結していくしかない。また、基幹病院の医師が地域の病院で診療することで、患者情報などを共有できるというメリットも感じている。
  • 魅力ある病院づくり。
  • 妊婦や家族に望むこと。妊娠出産は本来は自然なことであり、多くは無事に出産している。しかし「安全神話」ではない。妊娠出産は突然、何かの拍子に前触れもなく急変することがある。
  • 周産期死亡率と妊産婦死亡率。日本は世界的に見てもとても低い。しかし統計上10万人対比で4人程度は妊産婦が命を落としている。死亡率はこれ以上下がらないのではないか、と言われている。妊娠出産は女性にとって危険な難事業。危険は予測や予防ができない。(妊婦自身が体重やたばこ、風疹ワクチン接種などのリスクを減らす努力が必要)
  • これからの根室の分娩再開に向けて、まずローリスク層や経産婦の分娩から再開し、ハイリスク層は釧路日赤のような総合周産期センターで受け持つという分担からスタートしていくことが考えられるのではないか。経産婦は子どものことが心配、という声が多いということもある。
  • 出生数をしっかりとふやしていくことが大切。分娩数500に対して産科医6-8名が必要とされている。根室市は200名前後なので最低でも2名が必要。産科医数と少子化の悪循環。
  • 出生をふやすには育児の環境を整備することも大事。魅力的なまちづくり。
  • まとめとして、出生数や距離的な面を考えても、根室市には分娩施設は必要。妊娠中や分娩の安全性を確保したうえで分娩再開が望まれる。釧路日赤病院としても協力していきたい。
分娩休止となっている市立根室病院で、これまで産婦人科の常勤医として勤務してくださっていた先生が10月末で退職されることが報道されました。
複数体制をとることが出来ずに分娩再開をすることはできませんでしたが、その間も体調も崩されるなど健康面に不安を抱えながらも、6年間にわたって市立根室病院の産科、婦人科の患者さんのために、大変ご尽力されてこられたと伺っております。
11月以降は釧路日赤病院をはじめとした出張医師による応援態勢で診療を行うとのことです。

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