2020年6月28日日曜日

「根室市栽培漁業研究センター」を見学しました

2020年6月24日
根室市水産研究所付属施設として、2020年3月24日に竣工した「栽培漁業研究センター」の見学をしてきました
施設内の様子や、現在の様々な取り組みについて、ご紹介したいと思います


沿岸漁業の振興にむけた資源増大のために、これまで市水産研究研究所で培った研究成果や技術を活かして、種苗の生産量を拡大することや増養殖事業の積極的な展開を目的とした施設です。
また北方四島との共同経済活動の事業のうち5つのプロジェクトの候補の一つとしてあがっている「海産物の共同増養殖」に向けた中核的施設とされています。
そのため総事業費10億6,192万円のうち10億5,000万円が国と北海道からの補助金を受けています
しかし四島との共同経済活動に具体的進展が無い中、何の魚種を共同増養殖の対象にするのか示されていません。センターではウニ等の広範な種苗生産に対応できるよう体制整備を図るとしています

メインとなる水槽室。小学校の体育館が2~3個入りそうな大きさ

既存の水産研究所とつながっている渡り廊下を抜けると、新しい施設の水槽室が広がっていました
室内が明るいのは蛍光灯だけでなく、いくつもの窓や天井のアクリル板?から自然の光が入ってきているためです。太陽を浴びることで病気に強くなるそうです

ここでは飼育するための5トンサイズのFRP水槽が32基と、そのほか断熱機能水槽やろ過用水槽などが並んでいます
水槽一基で、稚ガニがおおよそ5~6万匹飼育できるそうです
多様な魚種の飼育や飼育環境の変化をつける試験数を増やすこと、また病気などの危険性を分散するために、より大きな水槽を用いずにこのサイズの水槽を設置しているとのことです
これまで水産研究所の種苗生産の最大実績は40万尾とのことですが、この栽培漁業研究センターの設備によって、将来的に120~130万尾の生産を目指していきます
これまでの種苗生産放流による資源への影響や効果については、カニやエビは脱皮するため、標識による放流後の追跡調査が出来ずにいます。現在の技術ではDNAによる測定も可能だそうですが、そのための設備投資など経費も多額にのぼるため、将来的な課題とされています

孵化して3週間ほどの稚エビが元気に泳いでいました。茶柱より少し大きいかな?というくらいの大きさ
上の網にはエサとなる植物プランクトンが付いています(付着珪藻)

現在、栽培漁業研究センターの水槽には、6月に孵化したばかりのホッカイエビが約9万尾ほど飼育されていました
栽培漁業研究センターのサイクルとして、1月~2月ごろに孵化した花咲ガニの稚ガニを5月まで飼育して放流し、6月から9月までホッカイエビを飼育して、3㎝ぐらいの大きさになってから、沿岸域に放流するそうです
根室ではホッカイエビは年間40~50トン程度漁獲されます。成長がはやく、おおよそ2~3年ほどで漁獲サイズに成長するそうです

培養室ではエサとなる植物プランクトンを育てていました
培養に適した温度管理が出来る部屋だそうです
花咲ガニの親
タラバガニの親。今年3月に交尾して、今はそのうち3匹のメスが卵を抱えたそうです

水産研究所では花咲ガニで培った研究成果と技術を活かして、タラバガニの養殖に向けた研究も進められています
今年2月に4漁業と「根室市タラバガニ養殖協議会」を設立して、室蘭の道立総合研究機構栽培水産試験場から親ガニの提供をうけて、1月に幼生が誕生しています

水産研究所で孵化したタラバガニの稚ガニ

タラバガニは1月に幼生が誕生して、3月~4月ごろにこのような稚ガニの姿になるそうです。
6月下旬では、7~8ミリほどの大きさになっているように見えました(もう少し大きいかな?)。おおよそ1か月に1回脱皮を繰り返す、らしいです。
ちなみに、写真の奥の水槽の底の茶色い点々はすべてこのような稚ガニです。見た目はまるでクモっぽい。
タラバガニは通常、漁獲できそうな1㎏のサイズになるまで、6年かかるそうです。
根室では夏場は水温が高くなるので、ベニザケ養殖のように海面で養殖をすることは困難です。しかし6年間も陸上で完全に養殖しようとすれば、漁業生産としては大変なコストがかかります。ただし水温をあげることで、4年で1㎏に成長させたという研究結果もあるそうです
センターでは、「様々なチャレンジをしながら、課題を明確にし、将来に向けた可能性を広げていきたい」と意欲をもっています

生まれたばかりのヤナギダコ。6月に産卵して翌年の6月頃に孵化するそうです。
すでにタコの姿をしており、スミも吐いていました。
一方、水産研究所の方では現在はヤナギダコが700匹ほど孵化していました
本来でしたら、内地の業者さんの協力により、落石の方の海に漁礁を造成して、放流する予定でしたが、今年はコロナの問題で業者さんが来ることが出来ず、放流することを見送ったそうです

漁協から提供をうけた卵を抱えた親のヤナギダコ
観察を容易にするために、今年からこのような形の塩ビ管で飼育する方式をとりました。実験的な取り組みでしたが、このような狭いスペースでも無事に産卵できることが確認されました。
こうした技術が確立すれば狭いスペースでも、産卵させることが期待されます
ちなみに通常、産卵後の親タコは孵化するまで1年間ほぼ何も食べずに卵を守り続け、そのまま死んでいくそうです
水産研究所ではタマゴが付着したアクリル板を取り出して親から引き離し、卵だけで育てる方式を実施しています。上の写真の子ダコは卵だけで孵化しました
そうすることで親だこの筋肉等が衰弱するまえに、加工品に回すことも可能になるのではないかと、考えられます

北方四島との共同経済活動では、この施設を拠点としてウニなどの複数魚種の種苗生産をおこない、四島海域に放流することを目指していますが、日ロの交渉は先の展開が全く見えない状況です。現在は沿岸漁業振興策として、これまで見てきたようにホッカイエビ、ヤナギダコ、花咲ガニ、そして新たにタラバガニ等の取り組みを進めており、開発した生産技術を最大限に活かして栽培漁業の推進に寄与することが期待されています
ただし大規模な施設だけに維持管理の経費も大きく、2020年度当初予算では35,513千円が見込まれています。さらに今後、水産技師など体制も充実させていく予定になっています。
そうした観点からも、四島における共同経済で漁業の分野で進展が図られること、また栽培漁業研究センターの運営に対する国の財政的な支援が必要と考えます。

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